エンタメ業界への夢に向かって学業に励むFC TOKYOの学生が東映本社へ赴き、上席執行役員の白倉 伸一郎さんにインタビュー対談を敢行。東映の魅力や、映像業界の未来について伺いました。
白倉 伸一郎 さん
東映株式会社上席執行役員キャラクター戦略部担当兼ドラマ企画制作部ヘッドプロデューサー。
日本映画テレビプロデューサー協会正会員。
映画の企画、宣伝、営業、配信などを手掛ける。
これまで数多くの映像作品を世に送り出し、任侠・実録アクションから『プリキュア』『仮面ライダー』などに代表される子供向け作品、また近年では『孤狼の血 LEVEL2』『科捜研の女- 劇場版-』『劇場版 ルパンの娘』といった話題作まで世代を超えた多くの人々に感動を与え続けている。
また、動画配信サービスの普及などメディアの多様化により映像コンテンツの重要性が益々高まっている現在も『多くの人々に楽しんでいただけるエンターテインメント』を提供するべく新たな映像作品を東京・京都両撮影所を中心に生み出し続けている。
向かって左から、
・3DCG・VFXクリエイター専攻2年
榊原 礼 さん
・プロデューサー専攻3年
木村 優 さん
・プロデューサー専攻3年
中野 沙耶 さん
・監督・ディレクター専攻3年
東本 仁瑛 さん
中野
白倉さんのご経歴と、どんなお仕事をされているのか教えてください。
白倉
1990年に入社してテレビ事業部に配属されました。
「仮面ライダー」や「スーパー戦隊シリーズ」などでプロデューサー業を務めたあと、テレビ朝日へ2年間出向したり、東映東京撮映所の所長になったりもしました。
今はキャラクター戦略部の担当をしています。
中野
キャラクター戦略部は2023年7月に新設されたばかりと聞きました。どんな部署でしょうか?
白倉
東映では自社のキャラクター作品が今後も長く愛されるように、リメイクや多メディア化をはじめ、海外のファン向けの展開など、さまざまな戦略を立てています。
しかし同じ作品でもテレビは「ドラマ部」、映画は「映画部」と担当組織が分かれていて、ひとつ稟議を通すのも複雑になっていたので、関係部署を調整するためにこの部署ができました。
毎日、各部の調整に奔走しています。
木村
白倉さんはなぜ東映を選ばれたのですか?
白倉
学生時代、「バトルフィーバーJ」という東映の特撮を観て「こんなすさまじいものがこの世にあったのか!」と衝撃を受けたのがキッカケです。
それから他の戦隊シリーズも観たのですが、どの作品も面白くて、撮っている監督や脚本家の別作品も調べて観ていたら、東映の映画やドラマばかり観るようになっていました。
就職活動も東映以外は目に入っていなかったですね(笑)
東本
お仕事のやりがいはどんなところですか?
白倉
今は自分がいなくても仕事が回る仕組みを作ることにやりがいを感じています。
入社したばかりの頃は、プロデューサーとして手がけた作品のエンドロールに名前が載ってとても感動しました。
20代30代は仕事を重ねていくうち、自分の名前が業界の中で知られるようになっていくのがうれしかったですね。
東本
僕も先日、監督助手をさせていただいた映画のエンドロールに名前が載っていたのを見て感動しました。
クレジットが載って一番うれしかったのはどんな作品ですか?
白倉
やはり初めて載ったテレビ番組ですね。
「恐竜戦隊ジュウレンジャー」というスーパー戦隊シリーズのひとつなのですが、業界の大ベテランの方々と並んで自分の名前が出たときは、歴史に自分が刻まれたような気持ちでした。
東本
東映の強みはどんなところでしょうか?
白倉
強みは3つあります。
ひとつは撮影場所を東京と京都に持っていること。
東映アニメーションというアニメ制作会社を傘下に抱えていること。
そしてこれほどテレビ番組を作っている会社は他にないことです。
個人的には、刑事モノも女の子向けアニメも、みんな悪者を成敗するという、戦いのDNAが強い会社だと思っています。
木村
現場でのコミュニケーションの取り方にコツがあれば教えてください。
白倉
現場には子どもの俳優から年配の監督まで、幅広い年齢層が集まっています。
年代の違う方とコミュニケーションを取るためには、普段から映画やドラマをいろいろと観ておくこと。
撮影現場にいる人たちは映像が好きなので、会話の糸口になりますよ。
榊原
最も印象に残っているお仕事といえばなんでしょうか。
白倉
仮面ライダー20周年記念に作ったビデオ作品ですね。
原作者の石ノ森章太郎先生と初めてお会いしたときに、先方からいただいた企画書に対して新入社員の私は「これは本当の仮面ライダーではありません!」とダメ出しをしたんです(笑)。
この無鉄砲な行動は今も忘れられないです。
榊原
その後、どうなったのですか?
白倉
石ノ森先生は新人の私に、新しい企画を任せてくれました。
私はほぼ初のプロデューサーの仕事だったのですごく燃えて、自分が作った企画を通して作品を作り上げました。
当時は「ベテランを押しのけてやったぞ!」と意気揚々でしたが、私がすごかったのではなく、ちょうど20年前に仮面ライダーを観ていた私の世代が本当に観たい作品を作ってみようかと、合わせてくれた石ノ森先生の懐が深かったんですよね。
そんな経験をさせていただいて、今があると思います。
東本
技術が発展した未来に、映像業界はどんな様子になっていくと思いますか?
白倉
映画やテレビ、パソコン、スマホなど、映像コンテンツは進化し続け、今では誰もが気軽に発信できるようになりましたよね。
サービスによって求められるものは違いますが、その分、表現の幅や選択肢も広がっているということです。
例えばテレビには細かな決まりがあり、それをクリアしたものしか放送できませんが、将来的にはその枠も取り払われるような気がします。
どうせなら最初に枠を取り払うのが自分だという自己実現をしたいですよね。
榊原
バーチャルプロダクションという最先端技術が作品にも取り入れられつつありますが、今後どのように発展するかを教えてください。
白倉
バーチャルプロダクションの代表的なものは、カメラの動きをトラッキングして、CG背景をリアルタイムで動かす技術です。
室内で撮影ができるため、天候や時間、行くのが難しい場所での撮影も可能になります。
特にLEDステージでは映り込みや照り返しなどもかなりリアルに表現できます。
始まったばかりでまだ課題も多いのですが、ひとつのツールとして習得しておきたい技術ですね。
東映でも2024年から、大泉・東京撮影所で国内最大級のバーチャルプロダクション撮影所が本格始動予定です。
木村
ほか、エンタメ業界を目指す学生たちがやっておいたほうがいいことなどありますか?
白倉
学生さんという立場を最大にいかして、学校の施設を利用したり先生を頼ったりしてほしいですね。
もうひとつ、アイディアや知識を引き出す仕事をやっていくために、どんな勉強も無駄にはなりません。
大人になってからも学べますが、学生時代の知識や経験は自分の基盤となって、仕事に役立つことも多いと感じています。
中野
最後に、エンタメ業界を目指す学生にアドバイスをお願いします。
白倉
エンタメは、人が生きるために必要な「衣食住」の外側にある業界です。
なくても生きられますが、衣食住を満たすだけの生活は文化的とは言えません。
エンタメの発展こそ文化文明そのものですし、誰かの人生を左右しかねないほどの大きな力を持ったものだと思います。
人間を人間たらしめる、世の中で一番素晴らしい仕事だと思うので、ぜひみなさんも仲間になってください!